「清楚なお嬢様系……ふぅん、分かった」


イチは頷いてあっさりと引き下がっていく。


「こんなギャルっぽい服装してるからダメなのかしら。それともいかにも気が強そうなこの顔??」


イチは腕を組むとブツブツ。


何なの……


「まぁ気ぃ強いより優しい方が好きやとは思うケド?」


はっきりと聞いたことはないけど、あいつの過去の女たちの統計によると俺の中のデータはそうなっている。


俺はどっちか言うと気が強くて元気系で……(エロっぽいなら尚更良い)が好きだから、今まで好きな女が被ることなんかなかったのに。


だから朔羅を好きって聞いたときは、正直驚いた。


しかも金魚まで!!


まぁそんな事情はさておき、


俺はちらりと車の中のデジタル時計を見た。バイトをあがってもう30分近く経つ。


「話はそれだけか。なら俺はそろそろ行かさせてもらうで」


車のドアを開けようとしたときだった。


バサっ


頭に何かを投げつけられ、俺は顔をしかめて振り返った。


シートの脇に落ちていたのは小冊子で、それが俺に投げつけられたものだと分かり、


「何だよ」ちょっと苛立ちながらもその本を拾った。


その小冊子は台本のようで表紙に「サロメ」と書かれていた。


「今度舞台で公演するの。って言っても来年のことだけど。小さな公演だけど主役に抜擢されたわ」


「ふーん、“サロメ”ね。あんたにぴったりやん」


俺は台本をつき返した。


「知ってるの?」


「聖書なんかに登場する女だろ?ヘロディアの娘で、愛する男ヨハネが手に入らないと知って、そいつの首を切り落として自分のものにしちまうの」


「ふーん、詳しいのね」


「本は好きだから」


そっけなく言って今度こそ車を降りようとすると、





「あたしもサロメのような女なの。




好きな男が手に入らないと思ったら―――その男を手に入れる方法はたった一つ




首を斬って私だけのものにするの―――」







イチが赤い唇から同じだけ赤い舌を少しだけ覗かせて、唇をなぞる。


俺はドアに手を掛けたままの格好で、その場で硬直した。