カフェの駐車場にイチの赤いフェラーリが停まっている。一台だけ飛び抜けて輝いて見えるのは、それがフェラーリと言うブランドだからか。
「おらっ。早よしい」
イチの背中でこの女の手を掴んだまま開錠を急かすと、
「離してよっ!」
イチは乱暴に手を払い、しぶしぶと言った感じでロックを開けた。
俺は無言で乗り込んだ。
憧れのフェラーリの座席はスポーツシートで、少し窮屈だ。乗り慣れてないってせいもあるが、
これだったらジープの方がいいぜ。
「話って何や」
イチが運転席に乗り込んですぐに俺は口を開いた。
「ホントに短気ね。呆れた」
とイチが吐息をつく。
「普段はそうやない。とにかく朔羅の無事を確認したいだけや」
そっけなく言うと、
「大丈夫よ。あいつはすぐに手出ししない。安心して?」
「信じられるかよ」
俺が睨むとイチは軽く肩を竦めてみせた。
だけどすぐに僅かに俯くと小さな吐息を吐いて、そっけなく窓の外を見た。
「相当な溺愛っぷりね。羨ましいわ」
その言葉に俺が顔を向けると、イチがたじろいだように身を後退させた。
「何よ…」
「いや……あんたでもそうゆう感情があるんやな、て」
考えたらこいつだって普通の女で、俺はじっくりと話したことがなかったし、
響輔の話を聞いてるだけだと、頭が良くてその分狡猾で、大胆かつ周到で……
とにかく、後先考えずに突っ走って行く朔羅とは正反対なタイプだと勝手にイメージしていた。
作り物めいた美貌の、人形みたいな女だからどこか感情が抜け落ちてるのかと思いきや―――
正直拍子抜けだ。
気が抜けた―――…って言ってもいい。
まだ朔羅の無事を確認してないから完全とはいかないが、緊張していて張り詰めていた神経の糸が少しだけ緩まった。
俺が少しだけ興味深そうに身を乗り出してイチを見つめると、
「な、何よ」とイチはますます怪訝な表情を浮かべてドアに身を寄せた。
「いや、もっと…こう、さぁ。男を手玉に取るよう女狐みたいなんを想像してたから」
「何よ!女狐って!!
まぁ確かにぃ、あたしは男を利用してのし上がってきたから反論できないケド!!」
キィキィ喚くイチの頭に、狐の耳がにゅっと生えてくるのが簡単に想像できて、
あかん、俺やっぱ相当動揺しとるみたいや。
この女がほんまに女狐に見えてきたわ。
俺は内心の動揺を押し隠すようにちょっと吐息をついた。



