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「あら、早かったのね♪」


店の奥でアイスティーを飲んでいたイチは、大きめのサングラスの向こうで目を細めながら、


私服に着替え終えた俺を見上げてきた。


俺は何も言わずにイチの二の腕を掴むと、この女を立たせた。


「ちょっと!何するのよ」


イチが苛立った声をあげたが、


俺はそれも無視して、




「煩っいわ!ごちゃごちゃ抜かしてじゃねぇ!!


早よ、しろや!」




と、いつもの俺を取り繕う余裕もなくドスを含ませた怒鳴り声をあげた。


周りの客たちもそうだが、まだ働いている店員もびっくりしたように手を止め、俺を注目する。


「ちっ」


苛立ったように舌打ちをして、俺はイチの腕を強引に引いた。


「ちょ、ちょっとぉ」


イチが怖がったように声を震えさせて、それでも俺に手を引かれてあとを付いてくる。


店の外に出て俺はイチの腕を引き寄せると、イチの肩を抱き寄せた。


イチがびっくりしたように肩を震わせたが、それは一瞬で、すぐに大人しくなり俺の腰に手を回してくる。


「あんたも男ね」


イチが楽しそうに笑う。


傍から見りゃラブラブカップルってとこだが、生憎だがそんな関係じゃない。


望んでもいないしな。


俺はイチの耳の横に掛かった髪をそっと掻き揚げて、口を寄せた。





「言うたやろ?俺ぁ響輔と違て甘くないんや。




響輔と違て短気やしな。




朔羅に何かあってみぃ。ただじゃおかんからな」





イチの耳元で囁くと、イチは目を開いて顔を強張らせた。