こうゆうときってやたらと時間が流れるのが遅く感じる。


焦りと不安だけが募り、俺の手から皿が滑り落ちた。


ガッシャン!


派手な音を立てて真っ二つに割れた皿を見て、俺はしゃがみこみながらのろのろと手を伸ばした。


厨房で働いている数名のパティシエやシェフたちが何事かこちらを振り返る。


「すみません」


俺は慌てて皿を拾い集めると、その割れた破片の端で指の先を切った。


赤い血が流れて、床に落下する。その飛沫に朔羅の笑顔が浮かんだ。





朔羅―――……


朔羅!!!





その血の痕に手を伸ばすと、


「…くん。龍崎くん!!」


とおネエ店長に呼び止められて、ドキリとして目を開いた。


「大丈夫?あんた顔真っ青よ!」


「あ…いえ、ちょっと……」


額を押さえてのろのろと顔を上げると、店長の方も顔を青くさせて俺の両腕を握り、俺を立たせた。


「貧血?具合悪そうよ?」


「いえ、本当に大丈夫なんで…」


俺は店長の手を払うと、シンクの縁に手をついた。


おネエ店長の言葉じゃないが、マジで貧血かも。しっかりと手をついて支えてないと、足元からぐらぐらと崩れ落ちそうな感覚に陥る。


「大丈夫じゃないわよ!もう今日はあがって。そんなんで仕事して怪我でもされたらこっちも迷惑よ」


とおネエ店長は厳しく言ったが、表情は心配しているようだった。


「いいから今日はもうあがりなさい。これは命令。お疲れ様、また明日宜しくね」


店長は男の口調で低く言うと、控え室に続く廊下を目配せして、


「………すみません」


俺は項垂れながら、厨房のドアを開いて外に出た。