「俺があんたの話に付き合ったら、朔羅は無事返してもらえるんだな」
確認するつもりで聞くと、
「約束は守るわ。
あたしだって今、響輔の恨みを買いたくないもの」
イチは軽く肩を竦めた。
俺は吐息を付くと、
「あと一時間であがれる。それまで待っててくれ」
と諦めたように肩の力を抜いた。
「ええ、いつまでも待ってるわ。その前にこれは預からせてもらうわね」
イチは握ったままのケータイを俺の手から抜き取り、電源を切るとバッグの中に仕舞いいれた。
ひたすらに焦っていたのもある。あっさりとケータイを奪われて、俺は抵抗する気力もなかった。
と言うかできない。
何て言ったって、今朔羅の命はこの女の手の中だからな―――
下手なことができない。
「あ、アイスティーを一つお願いね♪お仕事がんばって♪」
イチは軽くウィンクすると長い髪を振って、店内の席へと移動していった。
「お、おい!龍崎っ!あの女誰だよ!」
「まさかお前の彼女!?」
「モデル!?すっげぇ美人♪おまけにスタイル抜群」
さっきから背後で煩かった店員が、イチが離れるとわっと近寄ってきた。
「彼女じゃないっス。俺、仕事あるんで」
俺はそっけなく答えて、厨房に戻った。
話って何なんだよ。朔羅は無事なのか。
苛々と皿を洗いながら、ひたすらに時間だけを気にする。
早く…
早く!
早く朔羅の無事を確認したい!!



