。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。




だけど俺だって、幾ら目の前に餌(?)を巻かれたってほいほいついて行くわけにはいかない。


何せこの女は響輔にハジキを向けた危険人物だからな。


探るように目を細めていると、





「あんたは断れないわよ?



あんたの愛しの朔羅。―――今どこに居ると思う?」





イチがうっすらと微笑を浮かべて、俺は目を開いた。


イチの言葉を最後まで聞かずに、俺は控え室に飛び込んだ。




「朔羅―――……!」





だけどあいつの姿はなかった。


慌ててロッカーを開けて中を覗き込むと、きちんとカフェの制服がハンガーに掛かって吊るされていた。


バッグもなくなっているが、強引に連れ去られたと言う印象は受けなかった。


慌ててケータイで電話をするも、繋がらない。


ロッカーを閉めて手をつくと、絆創膏が張られていることに気付いた。


何でこんなところに…


目を細めてじっと見ると、その絆創膏に


“うさぎちゃんは僕とデートしてるよ♪ 大狼”


とマジックで書いてある。


「あっの野郎!……ふざけた真似しやがって!!」


ガンっ!!!


俺は八つ当たり気味でロッカーを蹴り上げた。


ちくしょう。変態タイガの野郎!


あいつは変態を装っているが―――





危険なヤツだ。






俺はカウンターに向かうと、メニューを見るフリをしながらカウンターに手をついているイチに近づいた。


「お前、朔羅をどうしたんだ」


ドスを含ませてイチを睨むと、


「安心してよ。あんたがちょっと付き合ってくれるのなら、あの子には手を出さないわ。


あの子は―――今、“玄蛇”と居る。



返答しだいで、あたしはどうにでもできるの。今すぐにでも“玄蛇”に電話をしてあの子を殺すことも可能よ?


どうする?」


イチは底意地の悪い笑顔を浮かべて、車のキーを左右にゆっくりと振る。


そのキーの先がまるで振り子のようにゆらゆら揺らめいていて、それだけで催眠術に掛かりそうな変な感覚に陥った。


それは催眠術なんかじゃなくて―――俺の不安を表していたんだ。





朔羅は玄蛇の正体を知らない。


俺と響輔は薄々勘付いてはいたが―――あいつにそのことを忠告しなかったのは、





あいつが変な風に警戒して、正体がバレた玄蛇の標的にされないよう





俺たちの間で決めたことだった。





それが裏目に出るとは―――