叔父貴―――……
もしかしてまだあたしがかんざしを向けたこと、根に持ってるのかな…
ドキンドキンと胸を鳴らしていると、
「僕ならここに居るよ?」
すぐ近くで声が聞こえて、あたしの手の上に戒の手がさらに重なった。
戒は風呂をあがったばかりと言う感じで、まだ髪も濡れいてたし、首にタオルをぶら下げている。
戒の声はいつものメガネの声だったのに、睨み上げる視線は険悪で冷たいものだった。
叔父貴は切れ長の瞳を細めて無言で戒を見下ろす。
凶悪で凶暴な肉食獣たちの視線が空中で絡まりあい、
『朔羅からその手を離せ』
『お前こそ離せ』
無言の視線がそう語っているようだった。
あたしは慌てて二人の仲裁に入るよう二人の間に割って入り、
「お、叔父貴どうしたの?戒に用事?」
と恐る恐る聞いた。
「ああ、少しな」と安心させるようにあたしに笑いかけ、叔父貴は顔をしかめると痛そうに口の端を歪めた。
よく見たら、叔父貴は口の端に小さな絆創膏を貼ってあって、額にも昨日戒にやられた傷跡が生々しく残っている。
「会長!そのお顔どうされたんですかい!」
マサがびっくりしたように目を開き、
「会長の美しいお顔に傷が!?誰にやられたんですかい!!」
と、組員の誰かが叫び声を上げた。
「ああ、これは……」叔父貴は口元を押さえながら、ちょっと考えるように首を捻り、
「階段から派手に落ちたんだ。
それは“階段落ち”のように」
といい訳してる。
てか、いい訳も戒と同じ!?
さすが(血が繋がってないけど)親子!!
組員は戒と叔父貴…二人を怪訝そうに見上げていたが、
「何だ、何か文句あっか!」
と叔父貴の一喝に組員たちは慌てて顔を逸らした。



