朔羅はキリさんが居ることで、琢磨さんに余計な気遣いをしていないようだ。
女同士だし、話しやすいんだろう。
気を許した感じでキリさんに笑顔を向けている。
店のスタッフに採寸されて身動きできない響輔が俺の方を見て小さく頷き、俺も無言で頷き返した。
俺は朔羅の元に歩いていくと、
「こっちの黒の方がいいよ」
と言って
ぐい
腕を引いた。キリさんから距離も気持ちも引き剥がすため。
「えぇ~?黒ってガラじゃないし」
「黒がええって。似合うよ」
「ピンクは確かにお似合いになると思いますが、黒の方が大人っぽく見えるかもしれませんね」
キリさんは俺の行動に気を悪くした様子はなく、にこにこ朔羅にアドバイス。
「そっか~」
「そうだよ。早く試着してみなよ」
俺は朔羅をフィッティングに強引に押し込むと、フィッティングの扉の前で腕を組んで仁王立ちになった。
くすくすっ
キリさんが堪えきれずと言った感じで笑い出す。
「まるでお姫様を守るナイトのようですよ。私は別にお嬢さんをとって食べようとしてるわけじゃないです。
ね、部長?」
近くに居て事の成り行きを無言で見守っていた鴇田が、急に話を振られて
「え?ああ…」と慌てて答えた。
それでも鴇田はちょっと考えるように目を細めると、
「お前、気をつけろよ?あの女かなりの肉食獣だ。取って食われないようにな」
と小声で珍しく友好的(?)なアドバイスをくれる。



