「“仕事”の話はおしまい。コーヒー冷めちゃうわ」
そう言ってキリはいつもの笑顔を浮かべると俺にコーヒーカップを押し付けてきた。
「毒見済みよ♪召し上がれ♪
スペシャルドリンク☆」
そう手渡されたカップを受け取り、俺は目を開いた。
―――スペシャルドリンク……?
俺はコーヒーカップをテーブルに置いて上着をひっつかんだ。
「ちょっと、どこ行くのよ」
キリが怪訝そうにして俺のあとを追ってきたが、
「悪い。用事を思い出した」
それだけ言い置いて靴を履いた。
「翔」
背後からそう問いかけられて俺が僅かに振り返ると、キリは妖艶な微笑みを浮かべて、
「昨夜の質問の答え。あなたを愛してるかって質問だけど」
「…ああ、それがどうした?」
それは今関係ないし、そんなこと聞かなくてもいい。
俺は結婚生活に“愛”を求めてないからな。
キリはそんな俺の機嫌に構わず俺の首にぎゅっと腕を回して抱きしめてきた。
「あなたのこと愛してるわ。
殺したいほどにね―――」
キリの発言に目をまばたくと、彼女は俺の耳元でくすっと甘く笑い、
「いってらっしゃい♪あなた―――って一度言ってみたかったのよね~♪」
といつもの調子に戻った。



