キリは俺の分のカップに口を付けると、
「恨んだりしないわ。だって私には兄なんて居ないも同然だから。生きてたって知っても何も思わないし」
とそっけなく言う。
「不思議よね。血が繋がっていようとかつては一緒に暮らしていただろうと、私には全くの他人みたいなの。
“兄”なんて言うけど、それすらも曖昧だわ。兄弟愛の意味が分かんないし、兄を心配する気持ちがこれっぽっちもないの。
どうなろうと、私には関係ない―――
いいえ兄だけじゃない。私は今まで深く他人を愛したことがないの。
ねぇ私って冷たいかしら。
人間として何か感情が欠けてるのかしら―――」
いつになくキリは真剣な表情で俺を見つめてきて、俺は何も答えられなかった。
俺にも血の繋がった実の兄貴“衛”が居るが、小さい頃からお互い干渉し合う事もなかった。派手な喧嘩もしたことがない。
どちらかと言うと冷めているほうだと思う。
実の娘―――イチに対しても
俺は愛情を抱いたことが一度もない
そういう意味で俺も冷たい人間なのかもしれないな。
……今、ようやく分かった気がする。
俺がキリを結婚相手に選んだ理由。
キリは俺に愛情を求めていないから、だからその関係が―――楽だったのかもしれない。



