あいつが苦しい恋ねぇ―――……


それってもしかして!叔父貴に恋してるってこと!?


ソッチの人でないことは分かるけど、でもいつも叔父貴にべったりだし。


そうなのか!


と、ちょっと思ったけど、それは何か違う気がした。


鴇田が苦しい恋をしてきたなんて知らない。


そもそもあいつの過去に興味がないし、知りたいとも思わなかった。


でも


あいつにはあいつの人生があって、あたしの過ごしてきた時間よりも遥かに長いことを考えたら、


ほんの少しだけ興味が湧いた。


「あいつも女居ないですよね。兄弟揃って独身主義なのかと思ってました」


「独身主義、かどうかは分からないけど、もったいないわよねぇ。


モテそうなのに。彼私のお店では結構人気なのよ。と言ってもあんまり顔出してくれないけど」


は!?あの陰険蛇田がモテそう!?人気!?


それだけは絶対ない!


彩芽さんは悪戯っぽく笑って、立ち上がった。


「はい、できあがり~」


ご機嫌に頷いて彩芽さんが少し浴衣を調える意味で、浴衣の合わせ目をちょっと触った。


「あの!ドクターと蛇田の下に…もう一人妹とか居ませんか?」


ドクターが彩芽さんに気を許してるんなら、そこら辺話しているかもしれない。


「妹?いいえ、そんな話聞いたことないけど。二人兄弟よ?」


彩芽さんは不思議そうに首を捻った。


何であたしがこんなことを聞くのか怪訝そうにしている。


「いや!あの妹なのかなぁって女が蛇田の周りをうろちょろしてるから」


慌てて取り繕った…嘘でもないけど、おおまかなことを省いて言い訳をして。


「翔さんの周りをうろちょろ?ああ、もしかしてイチちゃんのこと?」


彩芽さんの言葉を聞いてあたしは目を開いた。


「イチを知ってるんですか!」


彩芽さんはあたしの剣幕にちょっとたじろいだように身を後退させて、


「親戚の子みたいよ?私も深くは知らないけれど。事情があるとかで一度衛さんが連れてきたわ」


と彩芽さんが不審そうに目を上げた。