「バイクは趣味じゃあらへん。あれは俺の魂の一部や」
と響輔はしんみり言って遠くを見る。
「あっそ」
カッコいいのか、良くないのか……
「ところで何を聞きたかったの?まさか趣味を聞くためじゃないでしょうね」
短気そうに言うと、響輔はちょっと涼しく笑って、
「何で?ほんまにちょっとお喋りしたかっただけやよ」
「お喋りって……」
最近まであたしのしつこい電話攻撃に逃げ回ってたってのに、何で急にこいつから会いにきたのか、
単なる“お喋り”でないことぐらいあたしにだって想像つくわよ。
―――こいつがひとけのいない神社に女を連れ込んで、強引に迫ったり襲ったりするようなヤツでないことも知ってるし……
目的はただ一つ―――あたしの様子を探りに来た……?
と、ぼんやりと考えてると、響輔の手があたしの手にそっと重なった。
え……?
「ほっそい腕やな。力入れたら折れてしまいそや。ちゃんと食っとるん?」
急に問われて、あたしの心臓がドキドキと跳ね上がった。
な、何……?
響輔の手のひらはあたしの手から、手首へ…そして腕へと撫でるように移動していった。
真夏の夜のうだるような暑さとは反対に、響輔の手のひらはひんやりと冷めていた。
響輔の顔を見上げて、顔を覗き込むと夜闇と同じ黒い水晶体に、鳥居の紅い光が一筋反射していた。
ドキンと心臓が大きく音を立てる……
鴇田の組員を見慣れてるし、そもそも男はいつだってあたしに優しい。
たとえその優しさの下にどんな下心が隠されていようと、
関係を持つまで、その感情をやつらはひた隠しにしている。
だけどこいつの目からは何の感情も読み取れない。
こいつが強引に女を犯すようなヤツでないことは分かるけど、所詮は男だし。
「うろちょろするな」と言うけん制の意味で、脅しを掛けてきたかもしれない。
それでもそんな心の動揺を悟られないように、あたしは慌てて手を引き抜くように離すと、
「ふ、普段はサラダとか野菜中心。モデルのときから常に意識してたわけだし」
と顔を逸らした。
すると響輔もそれ以上近づいてくることなく、
「栄養偏るやん。ちゃんと食わな。俺はもっとふくよかな方が好きやけど?」
と、いつもの調子にすっかり戻ってのんびり言う。



