。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



「バイクは趣味じゃあらへん。あれは俺の魂の一部や」


と響輔はしんみり言って遠くを見る。


「あっそ」


カッコいいのか、良くないのか……


「ところで何を聞きたかったの?まさか趣味を聞くためじゃないでしょうね」


短気そうに言うと、響輔はちょっと涼しく笑って、


「何で?ほんまにちょっとお喋りしたかっただけやよ」


「お喋りって……」


最近まであたしのしつこい電話攻撃に逃げ回ってたってのに、何で急にこいつから会いにきたのか、


単なる“お喋り”でないことぐらいあたしにだって想像つくわよ。


―――こいつがひとけのいない神社に女を連れ込んで、強引に迫ったり襲ったりするようなヤツでないことも知ってるし……


目的はただ一つ―――あたしの様子を探りに来た……?


と、ぼんやりと考えてると、響輔の手があたしの手にそっと重なった。


え……?


「ほっそい腕やな。力入れたら折れてしまいそや。ちゃんと食っとるん?」


急に問われて、あたしの心臓がドキドキと跳ね上がった。


な、何……?


響輔の手のひらはあたしの手から、手首へ…そして腕へと撫でるように移動していった。


真夏の夜のうだるような暑さとは反対に、響輔の手のひらはひんやりと冷めていた。


響輔の顔を見上げて、顔を覗き込むと夜闇と同じ黒い水晶体に、鳥居の紅い光が一筋反射していた。




ドキンと心臓が大きく音を立てる……





鴇田の組員を見慣れてるし、そもそも男はいつだってあたしに優しい。


たとえその優しさの下にどんな下心が隠されていようと、


関係を持つまで、その感情をやつらはひた隠しにしている。



だけどこいつの目からは何の感情も読み取れない。




こいつが強引に女を犯すようなヤツでないことは分かるけど、所詮は男だし。


「うろちょろするな」と言うけん制の意味で、脅しを掛けてきたかもしれない。


それでもそんな心の動揺を悟られないように、あたしは慌てて手を引き抜くように離すと、


「ふ、普段はサラダとか野菜中心。モデルのときから常に意識してたわけだし」


と顔を逸らした。


すると響輔もそれ以上近づいてくることなく、


「栄養偏るやん。ちゃんと食わな。俺はもっとふくよかな方が好きやけど?」


と、いつもの調子にすっかり戻ってのんびり言う。