しばらく歩くと、小さな木造の古いご本堂が見えてきた。
ご本堂の前に石段があり、その上には、これまた古びた賽銭箱が置かれていた。
縦と横に走った木枠の向こう側は薄暗く、中の様子が見えない。
「せっかくだから願い事でもしてくか」
響輔が言い、あたしから手を離すとジーンズのポケットから長財布を取り出す。
響輔の手が離れていってしまって、あたしは名残惜しそうに手のひらを見つめた。
それでもその考えを振り払うように、わざと大きく肩をすくめながら、
「願い事って、随分ロマンチックね」
あたしも響輔にならってバッグから財布を取り出す。そのふしにバッグにつけたテディベアがまたも揺れて、
思わず頬が緩んだけど、慌てて表情を引き締めると財布の中を覗き込んだ。
だけど…
「小銭がない」
響輔は無言であたしを振り返ると、出し抜けにバッグに下げてあるテディをぎゅっと握った。
「ほんならこれを捧げたらどうや?」
「ちょ!やめてよ!!これは大事なものなんだから!!」
慌ててテディを奪い返してそう怒ると、またも響輔はちょっと笑った。
何だろう―――今日は……ちょっとだけ笑顔が多い気がする。
「小銭ないんならどーぞ」
あたしの手のひらに五円玉を置いて、響輔は財布をしまう。
しかもやけに今日は親切だし。
「あ、ありがと…」
何か裏がありそうで、探るように目を上げると、
「ええよ。“といち”(※)でな」
※“といち”とは十日で一割の利子を取ることをいいます♪
「はぁ!?くれるんじゃないの?」
「誰がただでやるかぃ」
裏……なんて、ないわね!憎たらしいほどいつも通り!!



