。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



しばらく歩くと、小さな木造の古いご本堂が見えてきた。


ご本堂の前に石段があり、その上には、これまた古びた賽銭箱が置かれていた。


縦と横に走った木枠の向こう側は薄暗く、中の様子が見えない。


「せっかくだから願い事でもしてくか」


響輔が言い、あたしから手を離すとジーンズのポケットから長財布を取り出す。


響輔の手が離れていってしまって、あたしは名残惜しそうに手のひらを見つめた。


それでもその考えを振り払うように、わざと大きく肩をすくめながら、


「願い事って、随分ロマンチックね」


あたしも響輔にならってバッグから財布を取り出す。そのふしにバッグにつけたテディベアがまたも揺れて、


思わず頬が緩んだけど、慌てて表情を引き締めると財布の中を覗き込んだ。


だけど…


「小銭がない」


響輔は無言であたしを振り返ると、出し抜けにバッグに下げてあるテディをぎゅっと握った。


「ほんならこれを捧げたらどうや?」


「ちょ!やめてよ!!これは大事なものなんだから!!」


慌ててテディを奪い返してそう怒ると、またも響輔はちょっと笑った。


何だろう―――今日は……ちょっとだけ笑顔が多い気がする。


「小銭ないんならどーぞ」


あたしの手のひらに五円玉を置いて、響輔は財布をしまう。


しかもやけに今日は親切だし。


「あ、ありがと…」


何か裏がありそうで、探るように目を上げると、


「ええよ。“といち”(※)でな」


※“といち”とは十日で一割の利子を取ることをいいます♪


「はぁ!?くれるんじゃないの?」


「誰がただでやるかぃ」


裏……なんて、ないわね!憎たらしいほどいつも通り!!