「どうだい?これから夜景のきれいなホテルなんかで一杯やり直すってのも?」
男が聞いてきて、
は?こいつ何聞いてんの?酔っぱらったていったじゃん。
と冷めたあたしが心の中で突っ込みを入れる。
まぁこの男としても一杯やり直すってのは単なる口実だろうけど。
でもここで断ったら、CMの話しは流れるだろう。かと言って簡単になびくのも癪だ。
「そうですね、どうしようっかなぁ……門限もあるし」
あたしは考えるふりをした。『行きます』と即答しないところが気に入らないのか、男がさらに肩を抱く手に力を入れる。
「門限?君のパパは厳しい人なの?」と本気にしてない様子であたしを覗き込んでくる。
「ヤクザの組長なの♪」
にこにこ答えると、男は一瞬「え゛!」と声を上げて怯んだものの本気に捉えていないのか、
「youちゃんは面白いなぁ」と更にあたしを引き寄せる。
嘘はついてない。
前のあたしだったら、この下心丸出しのやらしい手さえも利用して、「ええ、是非」と答えていただろう。
“好き”だとかそう言う感情じゃない。割り切っていたし、あたしだって利用してやろうと言う下心があった。
でも今はただひたすらに―――
気持ち悪い。
今日は鮮やかなオレンジ色のケリーバッグに―――響輔がくれたテディベアがくっついている。
そのテディを見下ろすと、あたしの歩調と一緒に揺れていた。
響輔は―――……
きっとあたしが誰とどこで何をしようと気にしないだろう。
この男と寝ることに嫉妬もしなければ、反対もしないだろう。
このあと―――
あたしはこの男とキスをするのだろうか。感情のないキス。
口付けを交わして、服を脱ぎ―――ベッドへ……
せめて雨でも降ってくれれば、東京の夜景を台無しにしてくれるのに。生憎雨の気配もしないし、
普通の女だったらきっととびきりロマンチックなそのシチュエーションに酔いしれるだろう。
この男はそれを狙っているのだ。
そんなことをシュミレーションをしていると
ゥウ゛ォン!!!
頭上で聞いた覚えのあるエンジン音が響いた。



