「お前が会長を―――?理由が分からないな。何故だ?」
俺は平静を装いながら聞いた。
「私が誰かに雇われていたとしたら?」
朝霧が薄く微笑む。
俺が唇を結び、朝霧を睨むように見据えると、
「それはないから安心して。私は会長のお相手で精一杯よ。
ただ“玄蛇”はね、今は滅びたと言っても玄武お抱えの、殺しの集団よ。その能力は四組織の中でも最強。
だから滅びた。その強大な力を恐れられいつか自分の組織が喰われると思ったのかしらね―――
その集団が生み出した、最高の殺し屋一人の男“スネーク”
本当に存在するのかどうか私にも実際分からない。
だけど私の“兄”は確かに存在したのよ。
妹のこの体に流れるのは確実に“ヒトゴロシ”の血。
あなたも油断しない方がいいわ」
それだけ言うと朝霧はカップをソーサーに置いた。
「どうぞ?会長室に行くんでしょ?手間が省けたわ。あなた運んでよ」
トレイを押し付けられ、俺は戸惑ったようにそれを受け取った。
玄蛇は―――殺しの集団なのだ。
このコーヒーには……
―――
俺が会長室をノックしてその部屋に入ると、
「遅かったな」
会長はいつもの口調でゆったりと俺を眺め上げ、その表情を見て一瞬だけトレイを持つ手が
震えた。



