「しかし一時は血が足りなくて、本当に危ないところだった。中々適合する血液が見つからなくてね。


だけど容態は安定しましたよ」


ドクターは穏やかに微笑んで、その笑顔から危険な状況から抜け出したことを悟った。


安定―――


「そっか…良かった……」


思わずほっと深いため息が出て、あたしは力が抜けた。


「と、まぁそういう事情がありましたので、遅くなりましたが、私はあなたを送っていこうと迎えにきたしだいです」


ドクターがにこにこ笑って、あたしの肩に手を置いた。


「え?送る?」


「ええ、このまま会長と帰るのは辛いかと思いまして」


ドクターは僅かに笑みを残したまま顔を背けた叔父貴を見据え、叔父貴は無言でこちらを振り返った。


「鴇田に送ってもらえ」


「え、でも……」


「そのままじゃ帰れんだろう。それに俺と二人きりはお前自身辛いと思うからな」


叔父貴は悲しそうに笑って、またも髪を掻き揚げた。


乱れた前髪が指の間から額に滑り落ちて、さっきのことを生々しく思い出す。


叔父貴の足元にはあたしが髪から抜いたかんざしが転がっていて、櫛の部分が鈍く光っていた。




ゆっくりと思い出したら、あたしは何てことを―――




あんなにも好きで、あんなにも望んでいた人の手を


あたし自身拒んだ。


それも最も酷いやり方で。


「……叔父貴、ごめん……酷いことして…」


小さく項垂れて謝ると、叔父貴は僅かに微笑んであたしのかんざしを拾い上げた。


「お前が謝ることは何もない。俺が悪かったんだ。お前を動揺させた」


いつも通りの優しい口調に、ほっとしたのか、あたしの涙腺が緩む。