そう言えば―――


こいつ、あたしと叔父貴が一緒に居るところを青龍会本部で見てるんだった。


あたしたちが何を話してたか、叔父貴が何をしたのか。


ドキリと心臓が波打って、思わずぎゅっと強く心臓を押さえる。


何も返せず俯いてると、


戒がおもむろに立ち上がり、あたしの肩に手を回してきた。ぎゅっと引き寄せられて、その温度や感触に、嫌な気分がまるで漣のように凪いでいった。





「何が言いたいのか分かんねぇけど、俺が朔羅を守るから。


そうあいつに伝えな」





まるで射るように鋭い視線で鴇田を睨み据えると、戒はドスを含ませた声で口を開いた。


「そのようだな。相変わらず仲が良いことで」


戒の挑発も余裕でかわし、鴇田が襟元を正す。





「だが小僧。


覚えておけ。お前には若さがあるが、まだ幼い。


全てを背負うにはまだ荷が重い」



鴇田―――……何が言いたいんだ…


あたしが目を細めて鴇田を睨むと、さらに鴇田は続けた。





「男女の愛は気持ちだけで繋がっていられる―――そう思っているようだが、どうかな。



時に人は絶大な権力や力を持つ人間の前に、運命や絆だけでは太刀打ちできないことを知る。



そのとき気付くさ。人間なんてあっけなく脆いものだと―――ね」




鴇田はあたしのあげた百合の花の花弁をそっと指で撫で、ゆっくりとあたしたちを見据えてきた。


鴇田が感情のない目であたしたちを見てきて、あたしたち二人と鴇田の見えない視線が空中で絡まり、火花を散らしそうだった。



だけど不思議だ。


戒は敵意のある視線だと感じているようだが、





あたしには―――




その視線が悲しいものに




見えたんだ。