何となく今マサや他の組員に顔を合わせ辛くて、あたしは着替えもせずに慌てて家を出た。
「バイト行って来る!」
飛び出るように家を出たあたしをマサは怪訝そうに見送ってたが、あたしは振り向きもせずひたすら走った。
キマヅイってのもあるけれど、早く戒に会いたかったから。
変なの。
別れたのはついさっきだってのに、もうあいつの姿を求めてる。
鴇田の見舞いだって言うのに、あたしの足は妙に浮き足だって先を急いだ。
――――
――
どでかい御園医院の内科病棟の特別室が鴇田の入院してる病室だった。
部屋の扉には名前が入ったプレートがない。って言うかプレートを入れる枠すら作られていない。
何故なら、ここが極道専用の病院だからだ。
外部の人間がそうやすやすと入ってこられる場所でもないが、念には念を入れてと言うことだろう。
徹底している。
遠慮がちにノックして顔を出すと、鴇田はベッドの脇でボストンバッグに衣類を詰めている最中だった。
戒とキョウスケもすでに居て、二人はそれぞれパイプ椅子に座って茶なんて飲んでくつろいでる。
鴇田はネクタイこそないが、いつも通りのワイシャツにスーツ姿。
その鴇田が振り返り、ちょっと驚いたように目を開いた。
「……お嬢…」
「…見舞い…こようかと思ったケド、もう退院?意味なかったな」
見舞いってことだったから一応花なんて買ってみた。
あたしは一輪の大きな百合の花を鴇田の前にずいと差し出す。
ホントは嫌がらせで彼岸花か菊を買ってやろうかと思ったが、さすがにそれは思いとどまった。
花束なんてガラじゃないだろうし、かといって手ぶらもなんだから。
きれいな白い百合が目に入って、しかも値段も手ごろだったからこれにしたわけだけど。
鴇田は驚いたように一瞬目を開いて、それでも遠慮がちに百合を受け取ると、
その百合を見つめながら、切なそうに瞳を揺らした。
な、何―――……?



