リコと通話を切ったあと、ケータイをバッグに仕舞おうと思って気付いた。
叔父貴からの着信が残っていたことを―――
昨日―――戒と居るときに、思わず着信を切ってしまった。
その後、今リコと電話をするまで電源を切ったままになってたから、叔父貴があの後掛けてきたのかどうか分からない。
でも家の方には掛かってなかったみたいだ。(マサの様子からすると)
叔父貴は―――どう思っただろう。
戒と居るって―――気付いたかな。
叔父貴にも―――――ちゃんと言わなきゃ。
あたしは白いチェストの上に置いてあるチェリーブロッサムのボトルを手に取った。
叔父貴がくれた香水。
戒が好きだと言ってくれた香り―――
『変えんで』
戒の言葉を思い出し、あたしはボトルをぎゅっと握りしめた。
戒が好きだと言ってくれたから、変えないでと言ってくれたから―――
いつものように香水を手首に付けると、付けていない期間は数日だけなのに酷く懐かしい香りに感じた。
いつもと同じ、爽やかだけど甘い桜の香りがふわりと漂ってきた。
桜に香りなんてないけれど―――
「朔羅」
その花と同じ名前を持つあたしを、愛おしそうに呼んでくれる戒の声を思い出して―――
何だか妙に照れくさいのと、嬉しいのと―――どこか高揚した不思議な気持ちになった。
『おかえり』
そう言われてる気がして、
「ただいま」
あたしはそっと体を抱きしめた。



