「畑中組…?」


煙を吐き出しながら、戒が目を細めた。


その険しい視線に―――たまに見せる……何もかも引き裂いて噛み砕くような獰猛な“虎”の視線に、あたしの方が一瞬驚いて思わず身を引く。


でも、すぐに戒の手があたしの肩を優しく包み込み、抱き寄せる力は優しかった。


その感触に少しだけ気を許して、それでもおずおずと戒を見上げた。


「…ああ、うん。お前が東京来て一番最初に乱闘騒ぎを起こしたクラブZって覚えてるか?あそこの店も畑中組のシマだよ」


何とか答えると、合点がいったように戒が頷いた。


「覚えてる。あの店、女の質はいいけど全体的にガラが良くないよな。客とかボーイとか用心棒とか」


「…そうなの?」


「まぁ俺も詳しくは知らねぇけど、そんな感じがした。畑中組の連中に言い寄られてた女もかなり怯えてた様子だし」


「そんなところに彩芽さんが……ねぇ」


何だか不自然な気がした。畑中組の男に脅されて、無理やり愛人にされてたって風でもないし…


ただでさえあの上品で常識もしっかりある人が、“愛人”だったってことにびっくりしたのに、そんなところの構成員と?って考えると、益々腑に落ちない。


「…あ。そー言えば、今思い出したけど、畑中組と言えばあんま良くない噂聞いたことあるよ」


あたしはふと思い出して戒を見あげた。


「噂?」


戒がまたも声を低めてあたしを見てきて、またあたしは意味もなくドキリとした。


「あ、あくまで噂だし、あたしもホントに聞きかじった程度だからホントかどうかわかんないけど」


慌てて手を振ると、


「いいよ。聞きたい」戒がちょっと笑ってあたしの髪の先を指に絡めた。


戒の手付きが優しくて、戒の笑顔が優しくて―――あたしはそれに少し安心した。





「あそこはヤクに手を出してるって―――噂」