どうしよう。
その言葉だけが頭を駆け巡り、湯の温度もあってかあたしの頭がかっと熱くなって、小さなパニックを起こしそうだった。
「わり。言い方悪かったな。別に怒ってるわけやないねん。ただ気になった言うか…」
戒は申し訳無さそうにあたしの頭を撫でると、それでもバツが悪そうに俯いて、
「……ごめん」
一言呟いた。
何で…
何で戒が謝るんだよ。
悪いのはあたしなのに。
それでも何から切り出そうとすればいいのか分からなくてあせあせと俯くあたしの頭の上に、戒がちょっと背伸びして顎の先を乗せて来た。
「なぁんかさ。俺、ずるいヤツやねん」
「は?ズルイ……?」
「そ。朔羅が何か悩んどるな思うても、このまま自分のものにしてまえばええかな、て」
あたしがちょっとまばたきすると、鏡越しで戒が力なく笑った。
「でもいざとなると、ほんまにそれでええんかな、って怖気づいてもうて。
いや、ヤれるんやよ。俺やって男やし。相手好きな好きな女やし。
でも足踏みしてる俺も居る」
かっこわる…
戒は最後にそう呟いて、ふいと視線を逸らした。
「俺は朔羅の気持ち無視してまで先に進みたないな、て。ってかっこ付けたいんやけどね。
ほんまのところは、俺自身なんや気持ち悪いんやわ。
そんなんで手に入れても、朔羅の全部を手に入れた気ぃがしんくて。
我儘でごめんな」
戒―――……



