ドクターはいつもの調子でにっこり微笑んで、着ていた白衣をさりげなく脱ぎ、あたしの肩に被せた。


ドクターの体温で温められた白衣はあたしには大きく、それでもドクターの手のひらと同じ温度に思いのほか大きな安堵感が湧いた。


「もう大丈夫ですよ」


ドクターは優しく語りかけ、あたしに掛けた白衣の前を合わせる。


そこでようやく自分がどうゆう格好でいたのか気付いた。


帯は解けて、腰で縛った紐が何とか浴衣をあわせていたが、胸元ははだけていたし、暴れたときに動いた脚も浴衣の合わせ目から出ていた。


慌てて裾を直し、白衣ごとぎゅっと抱きしめる。


「あなたらしくないですね。強行突破なんて」


ドクターはちょっと咎めるように言って叔父貴を見据え、叔父貴は無言で目を細めた。


「まぁ、分からないわけじゃないですけど。それにしても、もう少し慎重に動くべきでしたね」


ドクターの説教(?)に叔父貴は、苛々と乱れた前髪を掻き揚げ、


「黙れ。お前に俺の何が分かる」


とドスを含ませた声でドクターに凄む。


だけどドクターはちっとも堪えてない様子で、


「全部は分かりませんが、少なくとも私はあなたの体のことなら分かる」




「黙れと言ったのが分からんのか!」




叔父貴はもう一度声を上げ、あたしがビクっと肩を揺らした。


さっき、あたしを押し倒してきたときとは違った威圧感。


いつか見た……そう、あれは鴇田(弟)の指を折ろうとしていたときの威圧感。


あのときの恐怖が湧いてきて、あたしは目をまばたいた。


叔父貴―――……?


「怖い叔父さんですねぇ。姪のあなたはさぞ苦労されたことか♪」


だけどドクターはやっぱり堪えていなくて、少し楽しむかのようにあたしに耳打ちしてくる。


ってかあんたも大物だな。


こんな歩く凶器みたいな人を目の前にジョークとか。


ドクターのいつもの分け分からない調子に、それでも恐怖や怒りがゆっくりとおさまっていくのを、感じ取った。


もう一度白衣の前を合わせて、ようやく辺りの状況を見渡せるまでの余裕が出てきて、あたしはかぶせられた白衣を見下ろした。