「戒―――大事な話が……」


意を決して口を開きかけたときだった。


「お嬢、ここで何されてるんですか?」


いつの間にか入り口に立っていたマサが、顔をしかめて腕を組んでいた。





何でこいつぁ、いっつもいっつも間の悪い。


「…え、えっと!」


しかも急だったから言い訳も浮かばないで焦々。


「金魚を朔羅さんにもらったのはいいんですけど、名前決めるのに迷っちゃって」


戒がメガネの口調でにこにこ笑顔を浮かべた。


「で、朔羅さんは迷ったら好きな人の名前を付ければいいんじゃない?って言ってくれたから、僕……


金魚たちに“キョウスケ”と“マサ・タク”ってつけました♪」


ぅおお!戒!!おめぇすっげぇな!!そんな嘘がペラペラと!!


しかも全く悪意を感じさせない可愛くて爽やか天使ヴォイス。


「へ、変な名前つけんじゃねぇ!」


案の定、戒のエンジェルスマイルにやられてか、マサが顔色を悪くして後ずさった。


「だってこの子たちぜんいん男の子だって朔羅さんが…」


しかもちゃっかりあたしのせいにしてやがるし。(確かに言ったケド)


いつもならここで引き下がっていくマサだけど、


「お嬢、とりあえずお部屋にお戻りくだせえ。年頃の娘さんがこんな時間に男の部屋に居るのは良くありません」


年頃の娘さんだぁ??


やけに真面目な顔つきで、いつになく真剣に言い放つマサに腕を引かれた。


ど、どうしたんだよ、マサ…


いつもは戒のこの発言に顔色を悪くして逃げてくってのに。


マサはあたしの腕を引きながら、戒を射抜くように睨んだ。