『いいか?かおに向かってなげちゃダメだぞ?それから、床におちた豆はたべちゃダメだ。分かったか?』
「は~いっ」
注意点を説明する俺の言葉に奏は元気よく返事をする。
涙はすっかり消え失せていた。
『じゃあにぃにが“おに”をつれてくるから、奏はここで大人しくまってるんだぞ?』
「うん!!」
ホッと胸を撫で下ろし、園で貰った鬼のお面を手に取るといったん部屋を出た。
ドアをきちんと閉めてからお面をつけ、頃合いを見計らって部屋に戻る。
『ガオォォ~ッ!!』
「きゃーー、おに~っ!!」
適当なうなり声と共に奏の前に姿を現すと、奏はキャッキャッと楽しそうな叫び声を上げた。
奏の笑顔がいつも以上に輝いて見える。
こんなに喜んでもらえるなら、やる側としても嬉しい。
そんなことをぼんやり考えていると、奏が小さな手に握りしめた豆を投げ始めた。
「おには~そとっ!」
――ビュッ。
……えっ?
…………えぇ~っ!?
「ふくは~うちっ!」
――ヒュンッ。
奏の手から豆が放たれ、耳元で風切り音が鳴る。
背筋が凍った。