「おはようございます」


明るい声が響いて、反射的に振り向きそうになるのをなんとか押し止めた。


今は一秒でも時間が惜しい。

仕事をする手を止めてはならないのだ。



「ヒカちゃん遅~い☆」


私がメイクを施している由依くんが鏡の方を向いたまま不満げに言い遣る。


由依くん、男の子なのにふくれっ面も可愛いんだよね。

メイクしにくいから、今はあんまり顔を動かさないでほしいんだけど。


「ごめんね、急な呼び出しだったから出掛けにちょっと戸惑っちゃって。

奈々子さんも大変ですね」


『……っ//』


光くんが眉を下げて緩く微笑む。

それを見た私は思わず頬を赤らめた。



光くんはとっても優しい。

同じグループのメンバーにはもちろん、共演者や私たちスタッフ一人ひとりにまで声を掛けてくれる。


心なしか由依くんの頬も赤らんで見える。

きっとみんなも光くんのことが大好きなんだろうなぁ。


『よし、由依くんのメイク完了よ』


仕上げに軽くワックスで髪を整えて宣言すると、


「ナナちゃん、ありがとう☆」


と言って由依くんは部屋を飛び出していった。


『ふふっ、由依くんはいつも元気ね』


「そうですね、そこが由依のいいところなんだと思います」


きっと何かを思い出したのだろう。

光くんは口元に軽く握った手を添えてクスッと笑みを零した後、私の前の椅子に腰掛けた。