レインガーデン専属メイク・奈々子視点



「ちょっと、どういうことなの!?」


部屋中に響き渡るのは遥くんたちのマネージャーにして、『シルバー†ムーン』社長の妹・高槻志乃さんの声。


怒鳴られているのは言わずもがな、高槻社長です。

相変わらずうさちゃんの着ぐるみ着用の。



「ごめんなさい、お仕事の依頼OKしちゃってたのすっかり忘れてて……」


「着ぐるみなんかに現(うつつ)を抜かしてるせいでしょ!?」


ビリッ。


志乃さんが怒りに任せて引っ張ったと同時に布が裂ける音がして、着ぐるみの耳から綿が飛び出した。


「いや~!!

ヒドイわ、あんまりよ。

そんなに怒らなくてもいいじゃない」


「罰として私がいいって言うまでそこで正座してなさい!!」


目に涙を浮かべる社長にビシッと人差し指を突き付ける志乃さん。


あまりのいたたまれなさに私は目を背けた。



「さてと。

私たちは急いで現場に向かわなくちゃ」


『そうですね』


切り替えが早過ぎるとは決して言うまい。

この業界ではそれは何ものにも変えがたい長所であるのだから。


社長室を出る直前、背中に哀愁を漂わせた社長に向かって一瞬だけ手を合わせた。