東京の大学に通い初めてもうはやいもので4年目になった。
最初は慣れなかった標準語もいまは随分と慣れてすっかり都会っ子の気分だ。


夏休み、今年はいろいろ忙しくて実家に4日間しか帰れない。

久しぶりに帰った実家は何にも変わってなくてホッとした。オカンもオトンも元気そうで良かった。



リンちゃんとこもう顔出したん?とオカンに言われてチクッと胸が痛んだ。


リンちゃんとこ、とは俺ん家の向かいにある一軒家。リンちゃんとは一つ下の女の子。いわゆる幼なじみ。


まだと答えると、はよ行きやと催促してきたので重い腰をあげた。



インターホンを押すとリンのおばちゃんが出て来て、おかえりと笑ってくれた。

家に上がり他愛のない話をした。
大学のこととか就職のことなど、おばさんは昔からみんなに優しかった。もちろん俺にも。


リンにはもう会った?と尋ねるおばさんは話しているときは気付かなかったが、少し痩せた気がした。

最後にと思ってと言うと、ありがとうと言った。




リンの家を出て、足は公園に向かっていた。

住宅街の少しはずれにあるその小さな公園をリンと俺はパンダ公園と呼んでいた。パンダの乗り物があるからという簡単な理由だけど、なぜか二人の間ではそれが定着していた。正式名はもっと堅い名前だった気がする。



パンダの乗り物の向かいにあるベンチに腰を下ろす。


おかえりと確かに聞こえた。
だからただいまと返す。



おばさん、少し痩せたな。
夏バテしてるみたい。

そういえばこの前佐々木結婚してんで
佐々木くんが?なんかめっちゃ意外~

就職決まったで
良かったね!おめでとう!




なんでもないただの会話。
これがほしくて毎年、この日に合わせて予定を組んでるのをきっとリンは知らないだろう。



お前なんかテンション高くない?と尋ねるとサクちゃんと会えたからと笑いながら答えた。



私もほんまなら今頃トリマーしてたんかなと伏し目がちに呟く彼女の目は少し光っている気がする。


見たかったなと答えるとそれから涙が一粒落ちた。