彼から知らない女物の香水のかおりがしたのはどれくらい前だっただろう。

微かなものだったが、それはひどく甘ったるくてとても鼻についた。
私が絶対につけないココナッツ系。
そういうのつける子、好きだったんだ。


彼がどこに行くにも携帯を持つようになったのは、それからすぐだった。
別に携帯なんて見ないのに。
そんな隠し事と嘘でいっぱいなモノ、見る勇気なんて無いよ。


私が好き?って聞くとうんと返すようになったのはもっと前だった気がする。よく覚えてないけど。



このことを友達に言うと別れなよなんて言われるけど、私は別れるつもりなんてこれっぽっちもない。
私が折れて別れを切り出したら彼はその女と幸せになるんでしょう?
そんなこと、絶対させない。


彼が私を愛してなくても別にかまわない。だって私が彼を愛しているから。

相手の幸せを願えないのは本当の愛じゃないなんて、どっかのバカが言ってた気がする。そんな綺麗ごとクソくらえだ。


私は好きな人をどこの誰かも知らない甘ったるい香りを纏う女に渡すつもりはない。奪われたなら奪い返す。




ココナッツの香りが彼からするなら、私も同じ香りを纏うまでだ。
彼が携帯を離さずに持ってるならそんなのいちいち気にしなきゃいいんだ。
好き?って聞いてうんと返されるなら、聞かなきゃいいんだ。

たったそれだけのこと。
絶対に離さない。
だって私はあなたのことが死ぬほど好きだから。