移動教室の途中、不自然にならないようにちらりと隣のクラスを見る。

目当ての彼のまわりにはいつも笑いが溢れてた。彼らたちはいつも楽しそうに笑っていて、何がそんなに楽しいんだろうなんて考えてみたけど、そんなの私には当たり前にさっぱりわからない。


彼を見れただけでその日はいい一日になる。話したことも目があったこともないけど私の目が彼を捉えるだけで、その日はいい気分でいられる。

そんな、小さくて甘酸っぱい私の毎日。



ある日、委員会が長引いて絶対下校ギリギリに教室に戻ると彼がいた。
彼が私の机に座ってる。

あははという甲高い笑い声とともに。


彼は私の前の席の女の子と楽しそうに笑っていた。あのいままでずっと私が見てきたあの笑顔で。
なんとなく気まずくて教室に入れないでいると次第に笑い声が止み、静かな空気が流れた。

彼の影に重なる女の子の影。
見ていられなくて、急いでトイレに逃げ込んだ。涙がどんどん零れおちていく。
声を殺して泣いていると、チャイムが鳴った。


帰ろうかという彼の声が聞こえると、足音はどんどん近くなってくる。
それに比例して零れる涙も激しさを増した。


さっき教室に鞄残ってたやんなという彼の問いに木部さんでしょともう女の子が答える。

知らんなぁという彼の言葉を聞いた瞬間何も聞こえなくなった。



そんなこと分かりきってたことなのに。
彼が私を知らないことはよく考えれば当たり前で、200人もいるんだから知らない人がいることなんてよくある話。
私が彼を知っていても、話したこともない私を彼が知らないのは当然だ。
知ってるような気でいたのは私だけ。

そして彼には彼女がいた。
ただそれだけの話。
それなのにどうしてこんなに悲しいんだろう。失恋なんてよく聞くことなのに。


帰り道一人で泣きながら歩いた通学路。
いつもより30分もかかった。
彼の中には私は存在してないんだと思うといままであっためてきたこの想いをふんずけられた気持ちになる。

痛くて、辛くて、また痛くて

別に彼は悪くない。
そして私もきっと悪くない。
じゃあ誰が悪いの?と問うとなんにも返ってこなかった。
行き場のないこの想いをどうすることも出来ずにまた朝を迎える。