白い悪魔に一歩近づき、穏やかに問う。
「天使に戻ってくれませんか…?」
――彼女のために…
アンドラスはたじろいだ。
「ティアナの…ため…?」
自分が殺してしまったのに、少女は魂だけになってもなおアンドラスを覚え、かつ求めているというのか。
(ティアナ…)
瞳を閉じて愛しい少女の姿を思い出す。
(なら…僕は…)
全身全霊で応えよう。
魂に刻まれた願いを。
「わかった…。僕を天使に…」
ついに受け入れたアンドラス。
ミカエルは十字架から手を離し、再確認するように尋ねた。
「本当だな?」
「ああ。本当さ。早く僕を天使に戻して、とっととティアナを転生させてよね。あ、でもその前に一回シャッテンブルクに戻りたい。ダメ?」
「この私の部下を共に連れて行くなら良いだろう」
そう言って鎧の天使を示す。
「わかった。行くよ」
「え!?あ!待って下さい!」
急な出発に慌てるミカエルの部下。
(でも、よかった…。これで、あんなに悲しそうに泣く必要はなくなるんだ…)
自分が見守ってきた魂を思い出し、ホッとする。
しかし、それと同時に魂が近いうちに自分の側から離れると思うと、心がチクリと痛むのだった。
(何だろう…?この気持ち。あの魂を思うと…胸がざわつく…)
そんなことを考えていると人間界へ通じる天の門が見えてきた。
「ここから人間界に行くけど…この門は天使にしか開けられない。まだ僕には無理だから、君がやって」
「はい!」
素直に門を開ける。
「ありがと…えっと…君…名前は…?」
「あ!自己紹介まだでした!俺はライナルトです」
「そう、ライナルトね。覚えとく」
「はい!」
天使ライナルトは兜の中で、人懐っこそうに微笑んだ。



