崩れ落ちる体。

驚愕して動けない青年。

反射的に少女を抱き留める悪魔。




「…ティア、ナ…?」



震えた声。

まだ息がある少女は、忘れられない声にうっすらと目を開けた。

(アンドラス…来てくれた…)

裏切るつもりで町を出た。

けれど――。


(私を、追いかけて…きた、の…?)



――嬉しい…



言葉を口にしたかった。

しかし溢れてくる血液が邪魔をする。

血を吐きながら、彼女は微笑んだ。

「…ア…ド、ス…」

愛しい彼の名前さえ、もう言えない。

だんだんと視界が霞んでいく。


その時感じた、優しい雨。


頬に落ちてくる悲しい雫。


(アンドラス、泣いて、るの…?)


弱々しい最後の力を振り絞ってティアナは彼の顔に触れた。

悪魔の涙を指でなぞり、囁く。



「泣…な…い、で…」






それがティアナの最期だった。

少女の手はぱたりと床に落下した。


「ティアナ…?」

現実が信じられない。

「ティアナッ!!」

愚かな悪魔が泣いている。










「うわあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!」








 後はもう、罪深い悪魔の独擅場。