ティアナの帰還を無事見届けたバシンは魔界に戻ってきた。
しかしパンデモニウムには行かず、ルシファーのもとへ現れる。
「お嬢ちゃんはちゃんと体に戻ったぞ」
「ご苦労だったな。バシン」
地獄の王は先程の部屋で一人、佇んでいた。
ゴモリーは別の部屋にいるのだろう。
ここにはいない。
「俺様はどうも腑に落ちないんだが…あんた、何であっさり帰したんだ?」
アンドラスも疑問に思ったことを直接聞き出そうとするバシン。
ルシファーはしばらく沈黙していたが、やがてポツリと言った。
「…ティアナの…」
「お嬢ちゃんの…?」
「…ティアナの顔が真っ赤だった…」
「……へ?」
アンドラスがティアナのことを好きだと宣言して攻撃してきた時、アンドラスは気づいていなかったがルシファーはしっかり見てしまった。
ティアナのというより、ゴモリーの顔が嬉しさと恥ずかしさで真っ赤に染まっているのを。
(あの表情は、おそらく…)
彼は自嘲した。
「だから言っておいたではないかバシン。ちゃんと見張っておけと」
――破壊の悪魔が彼女の魂を独り占めしないようにな…
(両思いだと…?フッ…白けさせてくれる…)
他の悪魔の所有物などいらない。
まだ何者にも染め上げられていない魂が好ましいのだ。
(ティアナの魂は呆れるほど、奴の色一色だ…)
地獄の王は腹いせに部下の尻尾を踏み付けてから炎の中に身を隠した。



