その日の深夜、少女は町の人々の騒ぎ声で目が覚めた。
自分の寝台から起き上がり、眠い目を擦りつつ窓から外を覗いてみる。
そして彼女が目にしたものは、とても恐ろしい光景だった。
「あ、あぁ…!」
恐怖で声も上げられない。
町の人々は悪魔に襲われていた。
道には殺された人間の死体が転がっている。
「あ…やっ…」
これは悪い夢だろうか?
さっきも夢を見ていた。
真っ暗なところに閉じ込められ、恐くて何度も何度も母の名を呼ぶ夢。
次第に熱くなって、よくわからなくなって…。
「見ちゃ駄目だよ」
震える少女の両目を誰かが手で覆った。
「こんな楽しい悪徳の世界、子供が見るにはまだ早いよ」
甘美な声が少女の脳内に響く。
「だ…れ…?」
「僕は悪魔アンドラス。君はあの女の娘だね?」
アンドラスと名乗った悪魔は少女の目隠しをやめ、自分の方に顔を向かせた。
少女は彼の姿を目にし、息を呑む。
悪魔アンドラスの外見は人間と変わらなかった。
衣服は天使の衣のように白く美しいが、顔には褐色のカラスの仮面を被り、右手には大きな剣を持っている。
「君の名前は?」
穏やかに喋りかけてくるが、恐くないと言ったら嘘だ。
しかし、答えなければその剣で自分の命を散らされてしまうかもしれない。
「ティ、ティアナ…」
少女の声は掠れた。
「ティアナね…」
アンドラスはゆっくりとした動作でカラスの仮面を取った。
仮面の下の顔。
白い髪に口角を上げる唇。
目は長い前髪に隠れて見えない。



