宴の主催者が広間に現れた時、アンドラス達はたわいない話で盛り上がっていた。
「ボク、サリエルが酔ったところ見たことな~い」
ヴォラクがテーブルに置かれていた酒をぐびぐび飲みながら言った。
「酒よりも私を甘美に酔わせて下さるものがありますから」
「それは何なのだ?」
純粋なオセーの質問にアンドラスが呆れた。
「女でしょ…」
「正しくは愛する女性ですよ。アンドラス」
(愛する、女性…?)
サリエルの言葉に、ふとティアナを思い出す。
初めて口づけを交わした少女。
そして、初めて壊したくないと思った人間。
他の何よりも執着し大切に成長を見守ってきた、か弱くて儚い、愛しき相手。
(これが恋心…?教えてよ。僕のティアナ…)
頭の中ではすでに答えが出ているのに、心が後一歩を踏み出せない。
(もし僕が今の気持ちを伝えたら、君は何て応えるのかな…?)
悪魔からの愛情など迷惑なだけだろうか。
(そう、僕は悪魔なんだ。それでもティアナは僕に応えてくれるのかな…?)
「あっ、ルシファーが来た~」
一人の世界に入っていたアンドラスはヴォラクの声に反応し、広間の入り口に目をやった。



