二人きりになり、

直之はわざとらしく明るい顔で

円香の手を握った。



「え、ちょ…!」



突然のことに円香は困惑した。

振り払ってしまおうかとも思ったが

ドキドキと心拍数を上げる自分の心臓に

嘘をつくことが出来ない。




「文化祭の間だけ。

いや、皆と合流する間だけでいいから」


「…うん」




ほんの少し、せつなげな顔は作戦か。

くそう、と心の中で呟いて

円香は手の平から伝わる

直之の体温の心地よさに酔った。




「何から見る?」

「あ、じゃああたしの友達が

チョコバナナやってるから行こ?

バナナ大丈夫?」


「おう、俺嫌いなものは

亮佑ほど多くないから」




この後、円香は自分の失言に気づく。

円香が知らない男と手をつないで

来店した友達の反応を想像して

顔が赤くなった。



まぁ…でも。



いつも一緒にいる早苗は

どこに行っても注目の的だ。

たまには円香も注目の的になっても

いいじゃないか。



二人は会話は少ないものの

繋いだ手をぎゅっと握りしめて

校舎の中を進んだ。