直之と亮佑は、「おーい!」と
元気の良い円香の声に顔を上げた。
一目散に亮佑めがけて駆けてくる
円香はいつものことながら、
早苗も少し気恥ずかしそうではあるが
こちらに小走りに駆けてくる。
「あれ?菜々子さんとナツばぁは?」
「あぁ、…ちょっと色々あって
今は別行動中。
それより、劇面白かったよ。
円香悪役って言ってたけど
結局早苗たちの味方になるんだな」
「あっはは、そうなのよ!
実はね、本番直前に台本いじったの!
本当はずっと悪役のままで、
ナエちゃんにぶっ飛ばされる予定だったの」
…やはり劇中の兄妹はパワフルで
勇猛果敢だ。
「早苗ちゃんもお疲れ!
お兄ちゃんって言うときの
顔が引きつった感じ、リアルすぎて笑った」
「ははは、まぁね」
「ナエちゃんったらね、先輩から
普段からお兄ちゃんでいいんだぞ♡って
言われて、悪寒が走ったらしくて条件反射で
先輩の鳩尾に一発決めちゃったのー!!
腸爆笑だったんだから」
「ちょっと、円香何ばらしてるのよ!」
あはははー、と円香と直之は
顔を見合わせて笑っている。
その笑顔が本当に自然で、
早苗はほっとした。
朝の円香の反応や話を聞いて、
今二人が会ってしまったら
気まずいんじゃないかと心配したのだ。
それは亮佑も同じだったようで
二人が笑いあう姿を見て微笑んでいる。
早苗と亮佑の視線が自然と合って、
お互い気恥ずかしくてなんとなく
視線を外してしまう。
その様子をこっそり見ていた円香は
「人の心配してる場合じゃないでしょうに。
あー、甘酸っぱいわこの二人」
と呟いた。