「はい、お父さん」




デパートでの一戦…いや、一件が

終わって、父の日当日の兄妹の家。




相変わらず爽やか笑顔の立石と

引き攣った笑顔の早苗が、

プレゼント用に装飾された紙袋を

父親に手渡している。




この劇のどこがヘンゼルとグレーテル?

などと考えていた亮佑だったが、

最後の最後で母親がお菓子の家の形の

ケーキを持って登場し、一応

本物のヘンゼルとグレーテルを意識

していることが窺えた。




「ありがとう、二人とも。

今年の父の日は例年に比べて

とても素晴らしい父の日になったよ」




涙声で言う父親。

それはそうだ。

なにせネクタイを買いに行くだけのはずが

強盗一味をやっつける冒険譚になった。




ピアノの演奏が始まり、

出演者一同が舞台の上に整列する。



立石は早苗の手を恭しくとり、

その手を持ち上げ二人は

揃って頭を下げた。



観客から温かい拍手が送られ、

ファンクラブと思われる歓声が上がる。

どさくさに紛れて、菜々子も

「立石くーぅん!早苗ちゃーぁん」

と叫んでいる。

まるでジャニーズのコンサートのようで

亮佑と直之は自然と視線が合って苦笑した。




幕が閉まるまで歓声は続き、

完全に閉まったところで

体育館の照明が点灯した。



「ある意味すごい舞台だったな」


「まぁ、早苗も円香も頑張ってたし

面白い舞台だったな。

一番輝いていたのは言うまでもなく

立石だと思うが」


「それには同感だ。

あの超絶美人の早苗ちゃんが

霞んで見えるほど存在感に溢れてた」



うんうん頷いて、亮佑と直之は

やっぱり苦笑した。