一方、客席で早苗を見守る亮佑は

始まってすぐのころから、

心にダメージを受け続けていた。




早苗のお兄ちゃん発言には度肝を

抜かれたし、和馬が時々亮佑に

勝ち誇った視線を送ってくることも

彼をイライラさせていた。




劇が始まってから10分ほど遅れて

やってきた母菜々子とばぁちゃん…

特に菜々子も、亮佑の心をいちいち

逆撫でする発言ばかり口にした。




「やぁだぁ!

早苗ちゃんの相手役、

まぁまぁのイケメンじゃない!

二人が並ぶと美男美女ねぇ!」




亮佑は、母と妙なところで

意見が合うと少し落ち込む。

ばぁちゃんがぼそっと、相手役の

正体を告げても、菜々子は

和馬にきゃーきゃー言っていた。




「それにしても…」



背景を変えるためだろう、

照明が落とされ、早苗たちが

舞台袖に引っ込む。

それに合わせたかのように、

直之はニヤニヤしながら亮佑に言った。



「衣装、普通の私服だったなぁ。

あれか?ドレスは結婚式用に

取っておいてるとか?あーあ、

幸せなカップルは羨ましいなぁ」


「この劇は現代版ヘンゼルとグレーテル

なんだから、ドレスじゃおかしいだろ。

っていうか、結婚式ってなんだよ!

いや、別に嫌とかじゃなくてだな?

なんというか、ぁー、めんどくさい!」




顔を赤らめながらぶつぶつ言う亮佑に、

直之はクックと笑った。