「ある所に、仲の良い兄妹が暮らしていました。
兄の和馬はとても妹思いで、同様に家族のことを
とても愛していました。
妹の早苗は、そんな兄や優しく時に厳しい両親に
囲まれ不自由なく暮らしていました。
ある6月の爽やかに晴れた日に、二人は
もうすぐ訪れる父の日の贈り物を買いに
街に出掛けました――」
ナレーションの簡単な説明があり、
舞台袖に控えていた早苗と和馬は
円香に見送られてゆっくりと舞台の中央へ
移動した。緊張で早苗の歩き方が
ギクシャクしている。
和馬が舞台に立った途端、どこからか
悲鳴に似た歓声が上がる。
奇声禁止って説明したじゃない。
こいつはアイドルかっつーの…。
心の中で毒ずくと、早苗の緊張が僅かに和らぐ。
和馬は慣れっこのようで、全く動じない。
「早苗、父の日の贈り物は何がいいだろうね?」
「そうね、いつも家族の為に働いてくれる
お父さんに最高のプレゼントを贈りたいわ。
何かいいアイディアはある?…お兄ちゃん」
台詞はすべて、和馬が考えたものだ。
実の兄ではあるけれど、和馬を
お兄ちゃんと呼ばなければならないことに
何度頭を抱える思いをしたことか…。