「…はぁ」


「ごめんなさい…

ここ、怖かったわけじゃないの!

ただびっくりしただけで」




目を真っ赤にさせながら何を言う。

ばぁちゃんは再びため息をついた。




「ほんとに、ごめんなさい!

何度も謝ったじゃない。

母さんにも、生徒さんにも、先生にも」




ナツばぁちゃんは、

頭を抱えた。




こんな娘に育てた覚えはないのだが。

いつからこんな風になったのだろう。




菜々子は、ばぁちゃんの予期したとおり

いや、それ以上に激しく

小さなお化けたちに反撃をした。




突然のことに面を喰らい、

お化け役の生徒たちは抵抗する間もなく

菜々子と懐中電灯に

ボコボコにされてしまった。

幸い、流血沙汰は避けられたものの

生徒たちは怪我をしてしまったし、

担当する先生が止めに入るまで

菜々子は攻撃を止めなかった。




学校から追い出されることも

覚悟していたばぁちゃんだったが、

優しい生徒たちは

『突然驚かせた僕らにも

責任がありますから…』

と言って許してくれた。

お化け屋敷と言うのは、

普通そういうものなのだが。




菜々子はお化けに会ったときよりも

顔を真っ青にしてただただ平謝りし、

ばぁちゃんは先生に平謝りし。




一件落着でお化け屋敷を去る頃には

すでに劇は始まっていた。




「母さん、お願いだから

早苗ちゃんや亮佑に言い触らさないでね」


「言い触らすとは人聞きの悪い。

そんなこと言わねぇ。

…言えるはずがないでしょう」




母親の醜態を知ったら、

亮佑はカンカンに怒るだろう。

菜々子に恩があり、普段は

肩をもつ早苗でも、さすがに怒る。

…いや、早苗なら怒るというよりも

きっと呆れるだろう。

円香は手を叩いて笑い転げ、

直之はそのネタで亮佑を弄る。




そんな様子が簡単に思い描け、

ばぁちゃんはクスリと笑った。