「亮佑、ちょっと、いい?」


小声で言い、早苗は立ち上がった。

亮佑も後に続く。

背中で、母とばぁちゃんが

「若いっていいわねぇ」

などと言うのが聞こえた。




懐かしい廊下を通って、

早苗は自室に亮佑を招き入れた。

ある事件により、出禁にされた部屋である。




早苗はベッドに腰かけた。

亮佑は机の椅子に座る許可を

取ってから座る。

机の上には、夏祭りの時に

撮った写真が大切に飾られていた。




その時。

早苗が、写真に目を奪われていた亮佑を

優しく抱擁した。




「早苗」


「おっ…おかえり、なさい」




消えそうなほど小さな声で、

抱き着く腕に少し力を増しながら

早苗が言った。




「早苗」


ゆっくり早苗を引きはがして、

亮佑は早苗と見つめ合えるように

お互いの顔が見えるようにした。

薄暗い部屋の中でも、真っ赤だと

分かるほど、早苗は顔を赤くして

わざと下を向く。




「早苗。…ただいま」




パッと早苗が顔を上げる。

大きくて綺麗な瞳に、

今にも零れそうなほど涙を溜めていた。




「それと、絵。おめでとう」


「それと?…ついでみたいに言わないで」


「ごめんごめん。

新聞見たよ、前の日だか電話したのに

何も言ってくれねーんだもん。

母さんにドヤ顔されながら見せられた」


「ふふ、ドヤ顔?」


「うん、ドヤ!って顔してた」




徐々に、はがした距離を縮めて。

すっぽり亮佑の腕の中に入り、

早苗は恥ずかしそうに笑う。

亮佑も、照れ隠しで一緒に笑った。