「怖いんだよね」




円香がぽつりと言った。




「怖いって…何が?」


「というよりも、不安なの。

あたしって気が多いっていうかさぁ、

ついこの間までは亮佑オンリーラブで

亮佑しか見えてなかったのに、

亮佑をナエちゃんに取られて

すぐ直之に目がいっちゃって…

だけど、立石先輩も相変わらず好きだし」




円香が、亮佑オンリーラブと言ったとき

早苗は僅かに眉をピクッとさせた。

それがなんだか可愛らしくて、

円香は気付かないふりをする。




「円香は気が多いわけじゃない。

ただ、人を好きになりやすいのよ」


「…それ、フォローになってないし。

っていうか言い方変えただけじゃん」


「まぁまぁ。

で、どこが不安なわけ?

まさか、直之と付き合ってる間に

別の誰かを好きになるかも…とか?」


「うん、そう。まさにそれ」




うーん、と早苗が考えて、ようやく

スカートをパタパタさせる手を止めた。

周囲の男子はガッカリとした顔で

深いため息をつく。

円香は以前亮佑が、

"自分が女子であることを

早苗は分かっていない"

と言っていたことを思い出した。




「それはさ…」




早苗が先を続けようとした時、

タイミング悪く担任が教室に入って来た。

チャイムの音と共に、日直が挨拶をして

担任の学祭に向けての意気込みと、

浮かれすぎて気を緩めないように

注意を促した。




その一連の流れが終わると、

生徒達はそれぞれ持ち場に行き

準備を開始した。




「円香、後でね」


早苗は劇の準備の為に体育館へ行き、

円香はお好み焼きの屋台の準備をする為

屋台を出す中庭に急いだ。

本来なら円香も出演者の1人なので

劇の準備に加わりたいのだが

お好み焼きの屋台は、実はまだ未完成で、

そちらの準備が優先された。




円香はため息をつきながら、

屋台の組み立てを手伝った。