「お姉ちゃんの隣に座ってる…

まさか、あの男が…」


「いいえ、そんなはずないわ花音。

あんな普通のどこにでもいそうで

何も取り柄がなさそうな男が

お姉ちゃんの彼氏なわけがない」




ずたぼろである。

亮佑は一つ大きなくしゃみをした。

すると早苗は、ケラケラ笑いながら

心配そうな顔をする。




「みて!花鈴!…あれは紛れもなく…」


「…まさか、そんな…。

ねぇお兄ちゃん。まさかあの

馬鹿そうな顔の男がお姉ちゃんの彼氏?」




花鈴は兄の顔を見上げたが、

和馬は早苗の横顔を

激写するのに忙しかった。

シャッターを押す手が止まらない。

ニヤニヤしたり、ほわぁっとしたり

亮佑に嫉妬したような顔をしたり

すごく忙しそうである。




「もぉ、お兄ちゃんてば!」


「聞いてるの?お兄ちゃん!」


「ぇ、っあぁ、聞いている。

早苗の隣に座っているのが壱逗 亮佑だ。

アレが早苗の彼氏だよ」




花音と花鈴は、この世のものとは

思えない、絶望に満ちた顔をした。

一応、兄が窘める。




「おぃ、一応女の子なんだから…」


「だって…信じられない」


「まさかあんな男だったなんて…」




和馬は時間を気にしながら、

そろそろ行くぞと2人を立たせ

最後の一枚と早苗の横顔を撮った。




双子は、そんな兄に目もくれず

こっそり耳打ちしあう。




――許さない。あんな男が彼氏なんて。




あたし達が、許さないんだから。




花音と花鈴は密かに、しかし

その胸の中を熱くさせて決意した。




――お姉ちゃんを取り戻す。









こうして、学祭は

それぞれの思いを乗せて幕を開けた。