「ぁー、もう。

亮佑ってば今ナエちゃんのこと

考えてたでしょ?

このー!ぁあ甘酸っぱい!」


「俺からみたら、直之と円香も

十分甘酸っぱいわ!!」




急に、円香の顔が強張る。

亮佑も地雷を踏んだと後悔したが

もう手遅れだ。




「いや、あの…円香?」


「あたしと直之のどこが甘酸っぱいのー?

ただ騒いでるだけじゃない」




無理に笑っていることが分かる。

亮佑は申し訳なさそうな顔をしたが

円香はそれに気付かないふりをした。




「ここまででいいよ。

ここから先に行くと、あたしが

亮佑を家に送って行く羽目になるから」


「…ん。分かった。じゃあ明日な!

お好み焼き楽しみにしてる」




そう言って、2人は別れた。




小走りに家に戻ると、

早苗が門の前で待っていた。

もうすっかり暗くなっていて、

薄着では肌寒いというのに。




亮佑はふと、夏祭りの日を思い出す。

3人組に追い回されて、

さっさと逃げた早苗は、こうして

亮佑のことを待っていたのだ。




「遅いから、道に迷ったかと

思ったからココで待機してただけよ。

別に変な意味は全っ然ないから」




まったく、素直じゃない。




亮佑は早苗の頭に手を置き、

「待っててくれて、ありがとう」

と言った。




少し顔を赤らめながら

明後日の方向を向いて口を尖らせる早苗が、

いつもより二割増しで可愛く見えた。




その夜は、大宴会となった。

酒のみ樽澤さんが腰痛から一時復帰し

酔っ払った菜々子と踊り出して、

亮佑達はお腹を抱えて笑った。

テーブルを埋め尽くすほど出された料理も

ほとんど残らず綺麗に平らげられ、

久しぶりのばぁちゃん家の生活を

亮佑は満喫した。