「なんでだよ!早苗のこと
気遣ったつもりなんですけど?!」
「こんのぉ、大馬鹿者っ!!
何回同じくだりを繰り返すつもり!?
そろそろ読者に飽きられるわよ!」
「勝手に殴ってくるの早苗だろー!」
「そうさせるのは亮佑でしょっ
もう一発殴られたいわけ?!」
顔を真っ赤にさせて怒る早苗に、
亮佑は全く心当たりのないことで
怒られ、さっぱり意味が分からない。
まったく天然どMな男である。
早苗はフンっと明後日の方を向き、
閉じたばかりの雑誌を開いた。
亮佑は殴られた痛みから復活し
早苗のご機嫌を取ろうと試みるが
オールスルーで虚しく撃沈している。
己の恋愛経験の乏しさと鈍感さから
招くこの失態に、亮佑は頭を抱えた。
どうやったらこの状況を打破出来るだろう。
ぽんっと頭に浮かんだアイデアは
あまり亮佑らしくはない。
だが、これしかない。
失敗したら再び撃沈だ。
いや、失敗確率80%くらいだろう。
だが、これしかない。
亮佑は早苗の隣に改めて腰掛け直し
そっと、自然に。
早苗を後ろから抱きしめた。
早苗は突然のことで何が起きたのか
パニック状態になったが、
次第に状況を把握したらしく
くるっと身体の向きを変え、
自分から亮佑の背中に手を回した。
成功したらしい。
亮佑は心の中でほっと息をつき、
そして早苗のいい香りと、
柔らかい肌を感じた。
「……ばか」
腕の中の早苗が、ぽつりと言う。
だがいつもの刺々しさはなく、
優しい温もりが感じられた。
…ぁあ。そうか。
亮佑はやっと、早苗の今までの
不審過ぎる行動の意味が分かった。
気付くのが遅すぎたことと
自分の最低な行動、全てを含めて。
「ごめん…」
早苗が笑った。