早苗が亮佑のTシャツの裾を引っ張る。
「ねぇ…あの、…その」
「何だよ、俺の顔に何か付いてる?」
甘えた顔をした早苗に対し、
亮佑の応えは最低だった。
早苗は自分の頭の血管が切れる音を聞き、
拳を亮佑の鳩尾に沈めた。
「この、大馬鹿者!!!」
ふんっ、とうずくまった亮佑を無視し
早苗は家の中に戻って行く。
今日亮佑は何発早苗に
殴られているのだろう。
まったく学習能力がない男だ。
しばらく痛みで動けずにいると、
早苗と入れ違いで菜々子がやって来た。
「亮ちゃん、大丈夫?お腹痛いの?」
「早苗に…」
「ぁあ、それで早苗ちゃん怒ってたんだ。
もぉ、亮ちゃんったら。
女心ってのが分かってないんだからぁ!
早苗ちゃんみたいな上物、
そうはいないんだからね!
下手したらこれを逃すと亮ちゃん
一生彼女出来ないかもよ?
母さんに早く孫の顔見せてよねぇ!
ぁ、でも"おばぁちゃん"なんて
まだ呼ばれたくないなぁ」
身体をくねくねさせながら、
自分の息子をぼろくそに言う母親は
息子を無理矢理起き上がらせた。
「そうだ!これからお買い物行くの!
亮ちゃんも来るでしょう?」
…来るわよね、勿論。
そんな無言の圧力を醸す母に
亮佑は仕方なく頷いた。