亮佑は、田舎で過ごした

大半の時間を、"初恋"に費やした。

その相手こそ早苗であり、

2人は亮佑が都会に帰る前夜に

ようやく気持ちを通じ合うことが出来た。




気持ちが通じ合ったものの、

早苗の分かりにくい照れ隠しにより

亮佑は"夢"だったと錯覚していたため、

実は気持ちが通じてからきちんと

顔を合わせるのは今回が初めてである。




とりあえず家の中に入った一行は、

ばぁちゃんがお茶を淹れている間

居間で座って待つことになった。

亮佑と早苗がかなり気まずい雰囲気からか

直之のお喋りが止まらない。

それに拍車をかけて、菜々子は

いちいち直之の話しにリアクションをとる。




「直之君って本当に色んな事を

知ってるのねぇ!」


手を鳴らしながらニコニコする菜々子は、

亮佑の服を引っ張りながらしみじみ言った。


「どうして亮ちゃんは

こんな風に育ったのかしら…。

小さい頃からたくさん知恵絵本とか

読み聞かせてたのに…」


直之が菜々子の言葉を接いで、


「お母さん、悲しい!」


などと言うものだから、早苗は

お腹を抱えて大笑いする。

亮佑は誰にも見られないように

ひっそりと直之の鳩尾に拳を沈めた。