「これに懲りて、二度と朝から

人の家をのぞき見しないで。

次やったら殺すわよ」


「…すみません」




キャハキャハと笑う花音と花鈴を

和馬はジロリの睨んだが、

早苗からげんこつをくらい

シュン、と顔を下に向けた。




「それじゃあお姉ちゃん。

朝からお騒がせしました」


「いいのよ。楽しかったし。
.
花音ちゃんと花鈴ちゃんはいつでも

遊びに来てちょうだいね」




あえて"は"を強調する早苗に、

和馬は本気で落ち込む。

花音と花鈴はその兄の両腕を肩に担ぎ

家に引きずって帰った。




「だから、やめなさいって言ってるのよ」


「あれじゃ嫌われに行くようなものよね」




うんうん、と頷き合う2人に引きずられ

みっともない限りの和馬だが、

今日は1つ引っ掛かっていた。




早苗がいつもより優しかった

気がしたのである。

花音と花鈴がいたからか。

いや、違う。あれは…多分。




どこかの誰かさんが

台風の日にバス停で発見されたと聞いて

血相を変えて家を出て行ったあの時。

その後荷物を届けに行った和馬が

見た早苗の顔は、とても穏やかで

優しさに満ちていた。




そうか。

明日だもんな…。




憎らしいような、

しかしあの妹を、あんなに

柔らかくしてくれるアイツの存在。




「壱逗 亮佑…」


「はぁ?一途?

シスコンも大概にしなさいよ、

この馬鹿兄貴っ!」


「花音の言う通りだよ。

あたし達にも、もっと

優しくしてくれてもいいんじゃない?

この馬鹿兄貴っ」




両側から脇腹に一発決められて、

早苗の似なくてもいい所が似てしまった…

と呻く、お兄ちゃんである。