そんな円香をよそに、

菜々子は面白がってさらに言う。




「せっかくだから、直之君も連れて来たの。

ほら、夏に一回来てるって聞いていたし、

他にも色々聞いてますからね」




――ニヤニヤニヤニヤ。

今度は直之と円香以外がニヤニヤした。

円香はパッと亮佑の腕から離れて

腕組みをして明後日の方向を向く。




亮佑の母親だから、亮佑に似て

鈍い人かと思えば、結構鋭い。

亮佑はきっと父親似だろう。




円香はこの空気に耐え兼ねて、

さっと立ち上がり部屋を出て行った。




ぁあ、もう。

どうしたらいいの…?




早苗のことを素直じゃないと

散々馬鹿にしてきたけれど、

今は自分がその立場だ。

いつもの自由奔放な自分は、

どこへ行った。




部屋を出て、亮佑が使っていた客間に入る。

扉を閉めて、大きなため息をついた。




「…円香がため息?

亮佑に聞かせてやりてーなぁ」




突然聞こえた声にびっくりして振り返る。




そこに立っていたのは、直之だった。




「なっ、何よぅ。あたしだって

悩み事の1つや2つや3つ…」


「そんなにあるのかよ」


「な、ないけど…」




今日、初めてちゃんと顔を見た気がする。

たった2ヶ月では何も変わらない。

だけど、夏に会った頃は小麦色のだった

肌は、少し落ち着いていた。

雰囲気も、あの時より落ち着いている。




「この間は、ありがとな」




輝のことを言っているのだろう。




「いいよ、別に。

困ったときはお互い様でしょ?」