えっ――……
声にならない驚きの声が出た。
「いつまでも、後ろばかり向いているわけにいかないしな。お前も高1だし難しい年頃だ。父さん一人じゃ手におえない」
そんなお転婆娘だろうか。
別に前向きになれていないわけでもないと思うけど。
車の窓を開け、窓枠に頬をつけてもたれかかった。
風はやっぱりまだ冷たい。
なびく髪を心地よく思いながら、薄目で木々の向こう側の海を眺めた。
「こんにちは、菖蒲ちゃん」
私たちを待っていたのは、大人しくて上品そうな女の人。
活発で明るかった母とは正反対に見えた。お父さんのタイプがもうよく分からない。
「こんにちは」
挨拶だけするとすぐ、お父さんと女の人は二人で話し始めてしまった。
なんとなく離れて、海岸の堤防の上に座った。
ぼーっとすぐそこにある小島を眺めていたら、視界が暗くなった。
「…………」
「…………」
前にある顔と目がばっちり合う。
「こんにちは」
「…こんにちは」
「はじめまして」
「は…はじめまして」
びっくりした、誰だろう…。
「…あれ?菖蒲ちゃん、だよね?さっき母さんと話してたし、そうだと思ったんだけど」
この人、どうして私の名前…ていうか、“母さん”?
「あ、えっと…はい、高瀬菖蒲ですけど、あの…」
「そうだよね。…狐につままれたみたいな顔してるけど…お父さんから話聞いてない?」
「話…ですか?」
「そ。再婚相手に一人、息子がいるって。バツイチ母さんだよーって」
む、息子?!え、息子さん?!!この、目の前にいるお兄さん、息子さん?!
「え、え!息子さん…ですか?」
「うん。息子さん。宇喜多翼です」
にっこり笑った宇喜多さん。全然知らなかった…。
第一、お父さんにあんな人がいたことすら知らなかった。
「す、すいませ、私何も聞いてなくて…」
立ち上がろうとしたら、宇喜多さんが隣に座った。
「あ…すいませ…」
さっきから私、挙動不審だ。動揺しすぎておかしい。
「今日から兄妹だし、敬語なんていいよ。高校一年生だよね?」
「あ、はい。四月から、ですけど…」
「俺の一個下かー。…一個下に見えないね」
案外失礼な人だ。よく見ると綺麗な顔してるけど…。まあ、確かに子供っぽいほうだとは思う。服装も生前のお母さんにさんざん子供っぽいと笑われてたし。
「失礼だよ」
「あはは、可愛いねって言っただけだよ」
「文脈から読み取れません」
